私の小さな旅、トップに戻ります 私の読書メモに戻ります

プラウザの「←戻るボタン」で戻り下さい

私の読書感想メモ

渡辺 一史【著】こんな夜更けにバナナかよ―筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち
(札幌)北海道新聞社 (2003-03-31出版)

人工呼吸器を着けながらも自由を貫いた重度身体障害者と、生きる手ごたえを求めて介助に通う主婦や学生ボランティア。
ともに支え合い、エゴをぶつけ合う、そこは確かに「戦場」だった―。
札幌在住の大型新人が放つ渾身の長編ノンフィクション。

プロローグ 今夜もシカノは眠れない
第1章 ワガママなのも私の生き方―この家は、確かに「戦場」だった
第2章 介助する学生たち―ボランティアには何があるのか(1)
第3章 私の障害、私の利害―「自立生活」と「障害者運動」
第4章 鎖につながれた犬じゃない―呼吸器をつけた自立生活への挑戦
第5章 人工呼吸器はわれなり―筋ジス医療と人工呼吸療法の最前線
第6章 介助する女性たち―ボランティアには何があるのか(2)
第7章 夜明け前の介助―人が人と生きることの喜びと悲しみ
エピローグ 燃え尽きたあとに残るもの

渡辺一史[ワタナベカズフミ]
フリーライター。1968年(昭和43年)愛知県に生まれ、大阪府で育つ。北海道大学文学部中退。
1987年(昭和62年)より札幌市在住

本書は、札幌市内で在宅自立生活を送る筋ジス患者・鹿野靖明さんと、24時間体制で支える介助ボランティアとの交流や葛藤を描いたノンフィクション。渡辺氏がみずからもボランティアの一員となり、「わがままな」障害者である鹿野さんとそこに通う主婦や学生ボランティアたちの人生を丹念に聞き取った。
鹿野さんは、原稿完成直前の2002年8月、42歳で亡くなった。
 完成まで3年の歳月をかけてまとめ上げた本書では、ありがちな美談ではなく、障害者と健常者の枠を超えた新しい人間関係がリアルに描かれている。大宅賞選考委員の作家・関川夏央氏は受賞作発表の記者会見で「介護の話というと、普通は『またあれか』と思われるかもしれないが、その、またあれか、という最初の数十ページの感想が、だんだん裏切られていく。書き手がボランティアの場に放り込まれて、成長しないと生きていけない、というふうになっていって、ある種のビルドゥングスロマン(成長物語)としても非常に面白いのではないか。現在の福祉行政におけるノーマライゼーションに対する意義深い意見をもはらんで、スリリングな読書体験を生んでいる」と講評を述べた。
おい、バナナ食いたい」と筋ジスの鹿野から言われる。
どんなにボランティア精神に燃えているといっても、深夜は眠い。
起こされて、何を要求されるのかと思ったら、「バナナを食いたい」だと。
で、ボランティアの彼は「ちぇっ」と思ったわけだ。「こんな夜更けにバナナかよ…」と。

バナナの皮を剥いて、鹿野に食べさせた。
「オレはもう寝るからね、眠いんだから、オレは…。ったく、バナナなんて夜中に食うかよ、普通」とか
何とか思いながら、全身に倦怠感を漂わせつつ、背中を向けるボランティアの彼に、鹿野がさらに追い打ちをかける。「もう一本、食う。バナナ」
ボランティアの彼は、そこで、何か人間として薄皮が一枚、むけてしまう。
もう、この鹿野のためだったら、何だってやってやるという気持ちになってしまう。