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私の読書感想メモ


和田利夫著 郷愁の詩人・田中冬二 
出版年月  1991年11月
たなか・ふゆじ 1894-1980 福島県生まれ 小説家

冬二は7歳で銀行員であった父を失い、12歳で母をも失った、安田善次郎の縁籍に連(つらな)る東京の母方の叔父の家に育った。薄幸な少年の心の支えになったのが、両親の出身地の富山、特に父の故郷である現在の黒部市生地(いくじ)であった。

 ここには祖母も、またその祖母に引き取られた弟正健がいて、休暇を得て生地に行くことを楽しみにていた。冬二の初期の詩作を代表する「ふるさとにて」の末尾に、わざわざ「少年の日郷土越中にて」と注記した意味合いは大きい。

 少年の日のふるさと生地での記憶、少年の眼(め)に焼きついたふるさとの景色、冬二はその追憶と郷愁とを、ほんの微細な夾雑(きょうざつ)物さえも取り除き、ぎりぎりまでに彫(ちょうたく)した詩に表した。処女詩集『青い夜道』の中には、こうした「郷土越中」を扱ったと明らかなものだけで10編の詩を数える。
くずの花

ぢぢいと ばばあが
だまつて 湯にはひつてゐる
山の湯のくずの花
山の湯のくずの花
 豆腐
俺は白だ
おまわりでも誰でも彼でも
俺を縛ってみろ 縛れるものか