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私の読書感想メモ

久田恵  母のいる場所〜シルバーヴィラ向山物語〜



「お分かりにならなかったり」元気だったりする入居者たち、侠気の女社長、気配りのセンム、
個性豊かなヘルパーさん、そしてヒサダ家の人々…。
愉快な面々が繰りひろげる「介護」をめぐる愛と笑いと涙の物語。

人は誰でも老いを迎え、病気や障害を抱えたり、不安と孤独から痴呆になったりする可能性があります。

 “男女共同参画”が叫ばれる時代ですが、老親介護、子育てを依然として女性たち(妻、嫁、娘)が担い、
「子育てにお金のかかる四十代、五十代の世代が老親介護で家族崩壊の岐路に立って」います。

 この作品は、原作者・久田恵さんの実体験によるものです。介護する者される者、
それぞれの自立とは何か、介護とはどうゆう事か、
ふさわしい最後の居場所はどこなのか……。

久田恵[ヒサダメグミ]
1947年、北海道室蘭市生まれ。上智大学文学部社会学科中退。
1990年、『フィリッピーナを愛した男たち』で第21回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞

母の最期
「誰も何もいわなかったけれど、母が死に向って助走を始めたのだと私は気づいていた。
あの夜のことを唐突に思い出した。
母が倒れて5年目だっただろうか。母はときおり、ひどい鬱状態になった。
体が動かない。言葉が出ない。そのストレスは激しく辛いものだったのだろう。
深夜、ウォ−と吼えるような声をあげた。
飛び起きて様子をみにいくと眠っていた。
眠りながら悲鳴をあげていたのだ。
ある晩。夜中に目をさますと胸騒ぎがした。
母の部屋をのぞくと母が寝巻きの紐を首にまきつけていた。
不自由な体で、自力で死ぬことなど不可能なのに・・
私は母にすがって泣き続けた。
その私を母は黙ってみていた。

母の呼吸が激しくなった。まるで、急な坂道を必死であえぎながら登る機関車のように。
シュワ−・シュワ−と息をはき体が持ち上がり、胸が大きく波うった。
その激しさに思わず、横たわる母に抱きつき、「お母さん」と呼んで必死で抱きかかえた。
そして突然、機関車が急停止したように母の息がとまった。
倒れて13年、母がこんなに安心したような表情で眠るのをみたことがなかった。