私の小さな旅、トップに戻ります 私の読書メモに戻ります

プラウザの「←戻るボタン」で戻り下さい

私の読書感想メモ


垣 りん【著】 表札など―石垣りん詩集
童話屋 (2000-03-03出版)

「表礼など」は1968年思潮社刊。
著者は48歳でした。
本書は装丁を更えて復刊されるものです。

石垣 りん(いしがき りん、大正9年(1920年)2月21日-平成16年(2004年)12月26日)は、昭和・平成期の詩人。
東京都生まれ。4歳の時に母親と死別。15歳の時に日本興業銀行に就職。以来定年まで勤務するかたわら、詩を次々と発表した。
1969年に第2詩集『表札など』で第19回H氏賞、1971年に『石垣りん詩集』で第12回田村俊子賞を受賞した

「表札」

 自分の住むところには
 自分で表札を出すにかぎる。

 自分の寝泊まりする場所に
 他人がかけてくれる表札は
 いつもろくなことはない。

 病院へ入院したら
 病室の名札には石垣りん様と
 様がついた。

 旅館に泊っても
 部屋の外に名前は出ないが
 やがて焼場のかまにはいると
 とじた扉の上に
 石垣りん殿と札が下がるだろう
 そのとき私がこばめるか?

 様も
 殿も
 付いてはいけない、

 自分の住む所には
 自分の手で表札をかけるに限る

 精神の在り場所も
 ハタから表札をかけられてはならない
 石垣りん
 それでよい。
・・詩集「表札など」より

「貧乏」
 
私がぐちをこぼすと
 「がまんしておくれ
 じきに私は片づくから」と
 父はいうのだ
 まるで一寸した用事のように。

 それはなぐさめではない
 脅迫だ と
 私はおこるのだが、

 去年祖父が死んで
 残ったものはたたみ一畳の広さ、
 それがこの狭い家に非常に有効だった。

 私は泣きながら葬列に加わったが、
 親類や縁者
 「肩の荷が軽くなったろう」
 と、なぐさめてくれた、

 それが、誰よりも私を愛した祖父への
 ばなむけであった。

 そして一年
 こんどは同じ半身不随の父が
 病気の義母と枕を並べ
 もういくらもないからしんぼうしてくれ
 と私にたのむ、

 このやりきれない記憶が
 生きている父にとってかわる日がきたら
 もう逃げられまい
 私はこの思い出の中から。

私の小さな旅、トップに戻ります 私の読書メモに戻ります